2015年、韓国において姦通罪が廃止されたことは日本でも報道されました。
配偶者以外の相手と関係を持った人を処罰する姦通罪の存在は、韓国において不倫を食い止めるための重要な法律として制定・施行されましたが、現代の倫理観にはそぐわないとの判断がされる形となりました。
一方で姦通罪の廃止は、不倫を助長すると考えることもでき、同法の廃止後も議論は続いているようです。
韓国で62年続いた姦通罪
2015年まで62年間にわたって続いた姦通罪は、男女共に配偶者以外の相手と関係を持つことを処罰の対象とし、韓国国内における不倫に対する考え方の根幹を担ってきました。
姦通罪は日本人にとってはなじみがないものの、韓国国内では制定されてからの歴史の長さから人々の生活にも溶け込んでおり、例えばテレビドラマで不倫をしているカップルのもとに警察が踏み込み、摘発されるといったシーンが放送されることも珍しくはありませんでした。
一方で、きっかけとなる特定の出来事があったわけではありませんが、この姦通罪が違憲なのではないかとの考え方は人々の倫理観の変化に伴って増え始め、議論も頻繁にされるようになりました。
このことはやがて憲法裁判所に持ち込まれ、司法のもと、違憲か合憲かの判断がされることとなり、結果的に”国民の性的な自己決定権と私生活における秘密の自由を侵害する”との理由から、違憲であるとの決定が下されます。62年間続いた姦通罪の歴史は幕を閉じたのです。
姦通罪が制定された背景とは?
韓国における姦通罪の制定は1912年にまで遡ることができます。日本の植民地だった当時の韓国では朝鮮刑事令が制定されており、姦通罪に関しては日本の刑法がそのまま規定されていました。当時の日本の刑法における姦通罪は女性のみを対象としており、女性の不倫のみが日本・韓国共に処罰の対象とされていたことが分かります。
一方で、当時の朝鮮刑事令は言い換えれば、植民地支配をしていた日本によるものと考えられるため、その後韓国国内で制定、施行された姦通罪とは別物とも考えられます。
2015年の廃止まで62年間にわたって続いた韓国独自の姦通罪は1953年に制定されました。この法律では日本の刑法で規定されていた女性のみを対象とした姦通罪ではなく、男女共に処罰の対象となる姦通罪となっており、韓国国内における不倫に対する倫理観の根底を担うこととなりました。
以上のことから、韓国独自の姦通罪は62年間続いたものの、それ以前にも日本の刑法がそのまま規定されるという形で姦通罪は存在していたため、韓国における姦通罪の歴史は100年以上続いていると考えられるでしょう。
姦通罪の廃止で、不倫が増える?
一方で姦通罪の廃止は、刑法による不倫の取り締まりがなくなることを意味するため、一部からは不倫を助長するのではとの声も上がっています。また、このことを不倫の解禁と捉える人が多くなれば、不倫に対する倫理観にも大きな変化が生じると予想されるので、そのような理由からも不倫を助長するといえるかもしれません。
しかし、刑法で不倫を取り締まることができなくなっても、不倫が不貞行為である事実は変わらず、例えば不倫を理由とした離婚裁判で不倫をしていたことが実証されてしまえば、多額の慰謝料を請求される事態にもつながるため、姦通罪の廃止が社会全体における不倫の解禁に直結するとは言い切れるものではないのです。
また、姦通罪が廃止される直前の韓国では、姦通罪による逮捕・起訴は激減しており、姦通罪自体が有名無実化していたという事実も忘れてはいけません。つまり、韓国国内ではある日突然姦通罪が廃止されたのではなく、廃止に向けた段階がしっかりと取られていたため、姦通罪が廃止されたことによって、人々が急に不倫に走ることを防ぐ取り組みも十分にとられていたともいえるものです。
民法明記の「不貞行為」とは?
不倫を刑法で取り締まることができなくなった韓国では、日本と同様に民法のもと不倫を実証すれば、慰謝料などを請求でき、このことが事実上唯一の不倫に対する抑止力となっています。しかしながら、そのためには民法で規定する「不貞行為」を実証するための証拠を揃えなければなりません。
刑法における姦通罪の取り締まりでは、基本的に配偶者以外の相手と性的な関係を持った際しか摘発の対象にはできず、起訴をする際にも性的関係を持ったことが分かる証拠を揃えなければなりませんでした。
ですが、民法で規定された不貞行為には、性的関係を持つことだけでなく、夫婦の信頼関係を損なうすべての事柄がその対象とされており、例えば、民事裁判で不倫を理由とする離婚の慰謝料を請求する際には、性的関係を持った事実だけでなく、メールのやり取りなども証拠として利用することができます。
そのため、民法における不貞行為の範囲は刑法におけるそれよりも広く定義されていることが分かります。
韓国における姦通罪の廃止は、表面的な部分だけを見ると不倫を助長するようにも思えます。
しかしながら、実際は不倫の抑止力としての民法の存在はとても大きく、姦通罪が廃止されたことによって人々が不倫へと走ることを十分に防いでいるといえそうです。
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ECRII編集部 利根川
大学では心理学を専攻、卒業後、某出版社勤務を経て現職。趣味は人間観察。一見、色香豊かな女っぽい容姿にも関わらず、男性・女性に偏らないフラットな物事の見方や男女問題にまつわる過去の取材、手掛けた記事といった膨大なデータから導き出す的確なアドバイスに、男女を問わず周囲からの恋愛相談が耐えない。将来の夢は『猫たちと平穏に暮らす石田ゆり子』になること。