小さな恋がはじまったり、ひとつの愛が終わったり。映画や小説の舞台になるのもうなずける、非日常がつまった特別な場所、それがBAR。男性がBARで何を考えているのか、たっぷり伺った前回に続き、今回は「女性でも行きつけのお店って作れるの?」や「実際、BARでの出会いから始まる恋はある?」などなど、女性×BARにまつわる話をマスター目線で赤裸々に語ってもらいました。
女のひとりBAR、あざといって思われる?
編集長:いきなりですが、マスターがそもそもバーテンダーになったきっかけって何だったんでしょう?
マスター:あ、それ最初にそれをお聞きになります?実はとても単純なんです。若い頃BARに行く機会がありまして“バーテンダーって、なんてカッコいいんだ!僕もなろう!”と憧れだけで始めたようなもの。おそらく、バーテンダーの99%は、モテたくてバーテンダーを始めたと思います(笑)。
編集長:99%(笑)。でも、ちょっとわかります。バーテンダーさんって、皆さん格好良く見えますもん。
マスター:ベストを着て、さりげない所作のひとつひとつが男の僕から見てもスマートで。アルバイトから始めて、今では自分のお店を持つようにましたが、きっかけはカウンターの向こう側から見える景色ってどんな風だろう、という純粋な興味から。バーテンダーになる前はお酒もあまり興味がなくて、ビールが一番美味いって思ってたんですよ。
編集長:意外です!それを聞くと、お酒に詳しくない私もBARへ行ってもいいのかなと思い始めたり。
マスター:もちろんです。むしろお酒を飲めなくても、来て下さっていいんですよ。うちの常連さんにもお酒が一切ダメで、いつもノンアルコールビールを頼む方もいらっしゃいます。この空間の非日常感とか、職業や肩書きに関係ないフラットな会話を楽しむためだけに来てくださるんですよね。
編集長:女性もそんな『行きつけの店』が欲しいです!でも、ドラマで見るような“女がひとり、BARでお酒をたしなむ”みたいなことって、実際にあるんですか?誘われ待ち、みたいに思われたりしません(笑)?
マスター:いやいや、ここ数年の間で女性一人のお客様がすごく増えたんです。だから、お店で浮くこともないですし、ドラマみたいにいかにも〜な感じにはなりません。ゴルフや山登り、釣りなど男文化に興味を持つ女性が増えているじゃないですか。趣味もダイバーシティ化しているというか。
女性のための『行きつけBARのつくりかた』
編集長:そうかもしれません。でも、行きつけのBARって、どうやったら作れるんでしょう? 一見さんでも入れるものですか?
マスター:会員制のお店以外は、基本どのお店も一見さん歓迎ですよ。一見さんお断り、なんていうのはバブル時代の悪しき慣習みたいなもの。ぜひ、気になるお店を見つけたら入ってみて欲しいですね。あと、うちのお店の女性の常連さんで多いのは、女子会でご友人やお仕事で男性に連れて来られて、気に入ってくださって“次、ひとりで来てもいいですか?”と、お声掛けくださることから始まるパターン。
編集長:ええ、それはすごく自然な流れかも。他にも、何かポイントが?
マスター:まずはバーテンダーに話しかけて、コミュニケーションを取っておきましょう。僕たちも会話をしたお客様の印象って残りやすいんです。そして、一週間以内に再びお店に来て下さると、記憶も鮮明なのでちょうどいいかと思います。初回は、さっと一杯飲む程度が理想的ですね。そして、ちょこちょこ定期的に足を運ぶうちに、常連さんたちと顔見知りになっていくはず。そうすれば、もう立派な行きつけのお店の完成です。
編集長:そうしてできた行きつけのバーテンダーさんに、悩み事を打ち明けるのってアリなんでしょうか?友人にも同僚にも言いにくい、たとえば“誰にも言えない恋”の相談とか(笑)。
マスター:もちろん、お受けしますよ。僕個人の考えですが、お客様の考えを否定することはまずありません。“こうしたらいいと思います”とお伝えすることもないですね、“僕だったらこうします”という提案はしています。女性のお客様は特に、もう悩み事を話している時点で少し答えがみえてるんですよ。むしろ、背中を押して欲しいんだと思うんです。だから、僕は目の前のお客様が今一番欲しいであろう答えを会話の中から探り出して、そっとお届けするような感じです。その作業に集中しているので、例えばお名前であるとかバッググラウンドといった詳細までは覚えていません(笑)。だからこそ、安心してお悩みでも愚痴でもお話いただけたらと思います。
BARで生まれる恋って、本当にあるの?
編集長:BARで男女が知り合い、恋に落ちることって本当にあるのでしょうか?
マスター:何度もそうした場面に遭遇したことはありますよ。 “こちらの方もよくお店にいらしてくださるんです”なんて、僕が常連さん同士をご紹介したりしているうちに、お互いに好意が生まれたのでしょうね、いつの間にか良い雰囲気になっていたりして。
編集長:カウンターでそっと、色っぽい会話が交わされたり?
マスター:そうですね。でも、ダイレクトに二人きりというより、僕や他のバーテンダーを交えて3人で会話が進むことが多いので、スマートに恋が始まる感じです。また、そう上手に運ばずに、例えば女性のお客様があまり乗り気ではない様子の時は、お相手の男性に失礼のない程度に“終電のお時間大丈夫ですか?もう一杯どうします?”なんて、飲み物をお聞きしているふうを装って、それとなく助け舟を出すこともあります。
編集長:プロフェッショナル!
マスター:もちろん、恋が実ってカップルが生まれることも多々あります。しかしながら、これはお店側としては結構複雑な一面も(笑)。と言いますのも、お二人のお付き合いが順調に進んでご結婚となれば、思い出の店として、将来にわたってご夫婦で通ってくださるかと思うのですが、お二人が別れてしまったら、必ず一人、大切な常連さんを失うことになるでしょう?ですから、むやみやたらに、キューピッド役はしませんよ(笑)。
編集長:それは一理ありますねぇ……。ちなみに、お客様とバーテンダーさんが恋に落ちることってないんですか?
マスター:うーん、僕はありませんね。たとえ、どんなに素敵なお客様がいらしても、異性として意識することはなくて、そこはあくまでも一人のお客様。きっと、仕事場では恋のスイッチを押さないように注意しているのかもしれません。お客様とお付き合いするようなことがあれば“あそこのお店のマスターはお客さんに手を出すぞ”なんておかしな噂がたつこともあるでしょうし、それこそお別れするようなことがあれば、僕自身にとってもお店にとっても死活問題なので。オーナーになってしまった今、結婚や将来まで責任をもてるくらいの方に出会ってしまわない限り、恋愛することはないと思います。
編集長:ちょっぴり残念な気も。とはいえ、マスターは絶対モテますでしょう?
マスター:男性にも女性にも、“人として素敵だな”という意味では、モテていなくてはと思います。
編集長:模範的回答!さすがですね(笑)!
マスター:いやいや、僕なんて本当にただの聞き上手なおじさんですから(笑)。それに自分のお店を持ってしまった今でこそ、恋愛は引退してしまいましたが……。例えば、恋に落ちたお相手の男性がアルバイトとしてお勤めだったり、大きなダイニングバーの系列店のバーテンダーさんだったら、話は違うと思います。きっともう少し自由に、お相手がお客様だったとしても、恋愛を楽しんでいるはずです。ですから恋に落ちてしまったら、その時は、ね。ただし冒頭でお話した通り、バーテンダーの99%はモテたいので(笑)、遊び人の彼をつかまないよう、注意は必要かもしれません。
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青山BARマスター 平山ユキヒロ
青山エリアにある某有名BARのオーナー兼マスター。自分を"リセット"できる場所として、仕事に生きるバリバリのキャリア女子から、近隣エリアの大企業重役まで、幅広い客層でBARは連日賑わっている。端正な顔立ちとウィットに富んだ会話、行き届いたサービスに、マスター目当てで通うお客さんも多数。仕事柄、大人の男女の恋愛模様にも精通したマスターによる的確な分析と優しいアドバイスは心癒されること間違いなし。